大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成4年(オ)350号 判決 1992年4月10日

上告人(原告)

大野冨士雄

ほか一名

被上告人(被告)

細木秀二

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山原和生の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤島昭 中島敏次郎 木崎良平 大西勝也)

上告代理人山原和生の上告理由

一 原判決は、救助時における車外に放り出されていた者の位置関係は極めて不明確であつて、これにより同乗者の座席位置を推定することは困難であるとしているが、理由不備、理由齟齬、審理不尽、経験則違背の違法がある。

右位置関係の確定は、十分可能であり、且つ運転者の確定にとつて極めて重要な意味をもつことは鑑定書が、位置関係の確定を重視していることからも明らかである。

また、右位置関係に関する証拠としては、被上告人細木秀二の実況見聞時の指示説明と供述、救急隊員松岡晃の証言、甲第四号証の一、三枚目の通報者矢野ひろいちろうが「けが人二名が車の中にいる」と述べた記載、警察官小橋一友の、道路の南側に一名倒れていたとの証言がある。

被上告人細木の供述と松岡の証言は、大野及び池の位置につき相違しているが、被上告人細木は、事故直後平静な状態であつたとは考えられず、冷静に目撃・対処できたのは松岡であること、前記小橋証言に関する部分は、松岡の証言と一致するものの、被上告人の供述ではその指摘がなく、また大野の位置を特定できていないこと及び松岡証言は、甲第四号証の一、三枚目の記載とも一致することを勘案すると、本件事故後の位置関係については、松岡の証言どおりと認定すべきである。

そうすると、右位置関係は、池は立野商店の須崎寄りの方向の道路外公衆電話の付近(その公衆電話は甲第一〇号証の一に写つている)に、大野は横転した自動車の進行方向に対して右側前部―助手席側に上半身が車の外へ出て、下半身が下敷きになつていた(車の中か外か不明)、森は後部座席にいた、被上告人細木は軽傷で車外で立つていたものである(松岡証人調書九ないし一一丁)。

右の如く位置関係の認定をすることは、極めて合理性を有するものであるし(一審判決は、正当にもそう認定している。)、その位置関係を前提として、運転者の確定をなすべきであるのに、格別の理由を示さず、位置関係の認定を放棄した原判決は、違法である。

二 右の如く、合理的に認定された位置関係と鑑定書における本件事故前の座席順序は、本件事故後も保たれるとの見解とをあわせ検討すると以下のとおりの結果に到達するのが合理性を有するにかかわらず、そうなつていない原判決には、理由不備、理由齟齬、審理不尽、経験則違背の違法がある。

鑑定書は、自動車工学の理論からして、本件事故前の座席順序は、本件事故後も保たれるとしている(一一、一二頁。これは、本件事故の具体的態様をも前提にしたうえでの結論である。)。

本件事故前の座席順序は、前部座席には、大野と被上告人細木、後部座席には、運転席側に池、助手席側に森がいた。

鑑定書の見解と本件事故前の座席順序と前記本件事故後の位置とをあわせ考慮すると、運転席にいた者と池、助手席にいた者と森とは、本件事故後においても同じ側に位置することとなるべきである。

ところで、大野は進行方向右側(転覆後の自動車の助手席側)に池は進路方向左側(転覆後の自動車の運転席側車外)に位置しているのであるから、大野と池とは反対側に乗務していたものである。そして、池は、運転席側後部座席に乗つていたのであるから、大野は、助手席に乗つていたこととなる。

従つて、前部座席の運転席に被上告人細木、助手席に大野が乗つていたものであり、運転者は、被上告人細木である。

三 原判決が大野を運転者と認定する理由として、運転席側にいた池が死亡していることから運転席にいた者が死亡したとみられる可能性が高いこと、ハンドル付着血液の血液型がO型で、大野がO型であり、被上告人細木はA型であるところ、A型はハンドルに付着していないこと、大野の助骨骨折は、事故後ハンドルで胸部を強打したことによるものと推定されること及び森証言をあげているが、これらについては、次のとおり判断すべきであるので、原判決には、理由不備、理由齟齬、審理不尽、経験則違背の違法がある。

まず、池の死亡を直接運転者の死亡の可能性の高さにむすびつけているが、格別の理論的根拠があるわけではない。

つぎに、ハンドル付着血液は、大怪我をしていた森(同人の血液型はO型)を運転席から車外に搬出して、救助しているのであるから森のものと考えるのが合理的である。

さらに、大野の助骨骨折についても、大野の上半身が車外に出ていたことからすると、ハンドルによるものとは推定すらできないものである。

森証言の評価についても、森は本件事故時から被上告人細木と殊に親しく、本件事故後も被上告人細木と親しく付き合つており、大野が死亡していることをも考慮すれば、被上告人細木に不利な証言をする筈はないものである。

四 甲第一〇号証の三、四、六から明らかなとおり、本件自動車の運転席側は前部ドアは外れて、停止した本件自動車の南側後方に飛ばされ、後部ドアも殆ど外れかけており、運転席側は、前後部とも開放されているのに比し、助手席側のドアは前後部とも閉じられている(ロツクされている。)。

鑑定書二二頁では、「………最初車両がガードレールに衝突すると、右側ドアは前後とも開く」とされている。

そうすると、本件自動車外に出るのは、運転席側に乗つていた者であつて、現に池はそうであるし、池の外に本件自動車外に出ているのは細木である。仮りに、細木が助手席に乗つていたとすると、甲第一〇号証の六の状態からして、本件自動車外へでることは、不可能であることも明らかであり、細木が助手席にいた筈は絶対にない。

また、甲第一一号証の一六、二一から明らかなように、運転席シートは、助手席シートの後に入り込んでおり、運転席にいた者はその空間にはまり込み軽傷ですむ可能性があるに、助手席にいた者は、甲第一一号証の三、四、二一からして、助かる可能性はなかつたものであり、大野が助手席にいた者である。

右の如き、認定にいたるのが、合理的であるにかかわらず、原判決は、異なる認定をしており、理由不備、理由齟齬、審理不尽、経験則違背の違法がある。

五 以上のとおり、原判決には、理由不備、理由齟齬、審理不尽、経験則違背の違法があり、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかであるので、破棄を免れない。

以上

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